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ホルムズ海峡リスクで小売・飲食が本当に警戒すべきこと

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原油価格より先に、店舗利益を削る「二次コスト」をどう見るか

ホルムズ海峡をめぐる緊張が高まると、まず話題になるのは原油価格です。実際、それは重要な論点です。ただ、小売業や飲食業の現場で本当に重くのしかかるのは、その先で起きる変化です。LNGを通じた電気・ガス料金、肥料高を通じた食材原価、海上保険料や物流費、包装資材、そして納期の不安定化。こうした二次的なコストの動きが、売上より先に利益を削っていきます。EIAによると、2024年には世界のLNG取引の約20%がホルムズ海峡を通過しており、この海域の混乱は原油だけでなくガス市場にも直結します。

足元の情勢も、もはや「もし封鎖されたら」という仮定だけでは語れません。4月9日時点で、ホルムズ海峡の通航量が通常の10%未満に落ち込んでいると報じているところもあります。さらに4月12日から13日にかけて、米軍はイランの港に出入りする船舶を対象に封鎖措置を始めると発表しています。一方で、非イラン向けの通航を一律に止める方針ではないとも説明しており、現状は「全面封鎖」というより、通航は名目上続いていても、実務上は流量が細り、リスクが高止まりしている局面と見るのが実態に近いと推測されます。

日本は短期の供給面では一定の備えがあります。JETROによると、日本のLNG輸入量に占めるホルムズ海峡依存度は6.3%で、電力・ガス会社はホルムズ経由の年間輸入量にほぼ相当する約400万トン弱の在庫を持っていると整理されています。ただし、これは「影響がない」という意味ではありません。世界市場全体が引き締まれば価格面の影響は避けにくい。つまり今回の論点は、「止まるかどうか」よりも、「どのコストがどの順番で上がるか」にあります。

1.いまのホルムズ海峡情勢を、小売・飲食はどう見るべきか

ホルムズ海峡のニュースは、どうしても原油の話として話されてしまいます。それ自体は間違いではありません。ただ、小売業や飲食業の立場で見るなら、関心の置きどころを少し変える必要があります。重要なのは、その変化がどんな経路を通って店舗のコストに乗ってくるのかを見極めることです。

今回の情勢は、その意味でかなり現実的な局面に入っています。4月9日、ホルムズ海峡の通航量が通常の10%未満にとどまっていると報じられました。さらに4月12日には、米軍が4月13日からイランの港に出入りする船舶を対象に封鎖措置を始めると表明しています。法的に海峡全体が一律に閉じられたわけではありませんが、現場から見れば、輸送の不確実性が高く、流量が大きく細っているという事実のほうが重要です。商品や資源は、通れるかどうかだけでなく、どのくらい安定して動くかで実務への影響が変わるからです。

小売業も飲食業も、外から見える以上に外部コストへの依存が強い産業です。冷蔵・冷凍設備、空調、厨房、日配物流、包装資材、仕入れ原価。どれも毎日の営業に欠かせません。しかも、価格転嫁が簡単とは限らない業態が多い。だからこそ、ホルムズ海峡の問題は、国際ニュースのひとつではなく、店舗経営の損益構造に直接つながるテーマとして見ておく必要があります。

ここで押さえておきたいのは、影響が原油だけで終わらないことです。EIAは、ホルムズ海峡を通る石油フローが世界の石油・石油製品消費の約20%に関わるだけでなく、LNGも世界取引の約20%がこの海峡を通ると整理しています。原油価格の上昇だけを見ていると、実際にはガス、電力、肥料、物流、食品価格へと影響が広がっているのに、その手前で判断を誤りやすくなります。

小売・飲食の立場からすると、「このニュースは自分たちには遠い」と考えないことが重要です。むしろ、遠いところで起きたことが、一番見えにくい形で日々の収益にしみ込んでくる。その前提で見ておいたほうが、経営判断としてはずっと現実的です。

2.原油高より先に見るべき「二次コスト」

ホルムズ海峡リスクを小売・飲食の立場で見るとき、いちばん大事なのは「原油高」という一つの現象に話を閉じないことです。実際の経営では、原油価格よりも、そこから派生して起きる二次的なコスト変動のほうが、じわじわと利益を削ります。

最初に見えてきやすいのは、LNGを通じた電気代とガス代です。EIAが示すように、ホルムズ海峡は原油だけでなくLNGにとっても世界的な要衝です。今回の混乱がLNG市場に長い影を落とし、アジアの買い手、とくに資金力の弱い買い手に強い不安を与えていると報じられています。供給そのものが完全に止まらなくても、調達条件が悪化し、価格が高止まりするだけで、小売・飲食の固定費には十分響きます。

次に効いてくるのが、肥料を通じた食材原価です。FAOは2026年3月の食料価格指数が128.5となり、前月比2.4%上昇したと公表しました。背景として、近東情勢の悪化に伴うエネルギー価格上昇を挙げています。これは、小売や飲食の現場にとって「すでに食材価格への波及が始まっている」ことを意味します。しかも肥料や農業投入材の影響は、時間差を伴って表れます。そのため、現場では急な値上がりに見えても、実際には上流で進んでいたコスト増が遅れて届いているケースが少なくありません。

物流費と海上保険料も同じです。海上保険料が平時水準から大きく跳ね上がっているという報道もあります。4月に入っても、実流量が通常の1割未満という状態が続いているなら、輸送の不確実性とコストの高止まりを前提にしたほうが自然です。海上輸送に依存する商品であれば、中東からの直輸入でなくても、どこかの段階でその負担は価格改定や納品条件の変更として跳ね返ってきます。

そして、あえて強調したいのが、包装資材と納期です。テイクアウト容器、惣菜トレー、フィルム、ゴミ袋、洗剤といったものは、ひとつひとつの単価は目立ちにくいものの、毎日使うため、積み上がると無視できません。さらに、価格上昇以上に厄介なのが納期の不安定化です。通航量が大きく落ちている局面では、「いくらで入るか」と同じくらい、「本当に予定通り入るか」が問題になります。

3.小売・飲食の利益はどこから削られるのか

こうした二次コストは、一気に利益を吹き飛ばすというより、いくつものルートから静かに利益を減らしていきます。ここが今回の厄介なところだと言えます。売上が急に落ちるわけではないので、危機感を持ちにくい一方で、気づいたときには粗利や営業利益がかなり削られている、という形になりやすいのです。

まず、最も早く効きやすいのは光熱費です。スーパーなら冷蔵・冷凍ケース、バックヤード、空調。コンビニなら24時間稼働する設備。飲食店なら厨房、給湯、空調、冷凍冷蔵設備。どの業態でも、電気やガスは削りにくいコストです。供給が完全に止まらなくても、LNG市場が引き締まれば、その分だけ利益に効きます。ここは売上が変わらなくても利益だけが削られるので、数字上は目立ちにくい一方、かなり重い。特に利益率がもともと高くない業態では、この影響は早く表れます。

次に、食材原価は時間差を置いて効いてきます。日本では農林水産省が、主要な化学肥料原料の大半を輸入に依存している構造を示しています。世界の肥料市況や運送費が上がれば、それは国内農業コストに波及し、やがて青果、畜産、乳製品、加工食品へと広がっていきます。飲食業では、野菜、油脂、小麦、畜産、乳製品など複数原料を同時に使うため、複数商材の値上がりが重なりやすい。小売でも、生鮮、惣菜、冷凍食品、日配といった違うカテゴリでじわじわ影響が広がるため、カテゴリごとの粗利管理が重要になります。

物流費も見落とせません。仕入れ原価が上がるだけでなく、共同配送費、冷凍冷蔵配送費、納品条件の変更、最低ロットの見直しなどが、販管費として利益を削ります。商品単価ばかりに目が向いていると、実際には営業利益を圧迫している物流費の変化に気づきにくいのですが、今回のような局面ではむしろそこが効きやすい。中東から直接仕入れていなくても、海上輸送に依存するサプライチェーンのどこかでコストが上がれば、結局は仕入先企業の価格改定や条件見直しという形で波及してきます。

包装資材や消耗品も同じです。容器やフィルムの単価は、食材ほど目立ちません。ただ、使う量が多い業態では確実に効きます。特にテイクアウトや中食では、食材、光熱費、物流に加えて包材まで同時に上がるため、利益が削られやすい構造になっています。

最後に、欠品や納期遅延です。これは価格上昇以上に痛いことがあります。小売では売れ筋商品の欠品が来店満足度を下げ、飲食では主要食材の不足がメニュー運営そのものに影響します。価格だけ見ていても不十分で、これからは納期の安定性も同じ比重で見ていく必要があります。

4.なぜ日本では“供給停止”より“価格高止まり”が問題になりやすいのか

今回、日本の事業者にとって特に重要なのは、危機の出方が中東諸国そのものとは違うという点です。ホルムズ海峡をめぐる混乱は、ニュースとしては「止まるか、止まらないか」の二択で語られがちですが、日本の実務ではそれほど単純ではありません。

JETROによると、日本のLNG輸入量に占めるホルムズ海峡依存度は6.3%、中東全体依存度は10.8%です。最大の供給源はオーストラリアやマレーシアであり、原油ほど中東依存が高いわけではありません。さらに、電力・ガス会社はホルムズ経由の年間輸入量にほぼ相当する規模のLNG在庫を持っています。

ただし、ここで安心してしまうと判断を誤ります。日本は直接依存が限定的でも、世界市場から切り離されているわけではありません。カタールは世界的なLNG供給国であり、その動きが止まれば、欧州もアジアも同じ市場で取り合うことになります。その結果、日本向けの調達条件や価格が悪化することは十分ありえます。つまり、日本にとって問題になりやすいのは、突然の全面停止より、価格の高止まりと調達条件の悪化がじわじわ長引くことです。

食材についても同じです。日本では肥料原料の多くを輸入に頼っていますが、だからといって直ちにスーパーの棚が空になるわけではありません。むしろ、国際市況の上昇が少し遅れて国内に反映され、その後に仕入れ先からの値上げ通知が相次ぐ、という形になりやすい。実務として本当に厄介なのは、こうした“遅れてやってくるコスト高”のほうです。突然止まるより、長く高い状態が続くほうが、店舗ビジネスには重くのしかかります。

この構図を理解しておくと、いま何を見るべきかも見えやすくなります。原油価格だけ見ていても足りません。むしろ、天然ガス、食料価格指数、肥料市況、物流費、包材単価、納期遅延件数といった複数の指標を重ねて、自社の弱点を探す必要があります。日本の事業者にとっての現実的なリスクは、ニュースの見出しより、高コストと高不確実性の長期化です。

5.どの業態が先に苦しくなりやすいのか

今回の影響は、すべての業態に同じように出るわけではありません。差が出るのは、単純な規模の大小ではなく、価格転嫁しやすいかどうか、そして外部コストへの依存がどれだけ強いかです。

食品スーパーは、冷蔵・冷凍設備の電力負荷が大きく、生鮮、日配、惣菜、冷凍食品といった値上がりタイミングの異なる商材を同時に抱えます。特に惣菜は、食材、光熱費、包材のすべてに影響を受けるため、今回の局面では利益が削られやすい部門です。スーパーは売上規模が大きいぶん吸収力もあるように見えますが、その反面、薄利多売で回している部分も大きいため、コストの積み上がりには弱い面があります。

コンビニは24時間営業と高頻度配送が特徴で、電力、物流、包材の影響が重なりやすい業態です。単価の小さい定番商品が多いため、価格改定にも制約があります。利益は残っているように見えても、細かなコストが積み重なると意外に効きます。特に、冷蔵設備と配送コストの両方を同時に受ける点は、今回の局面では無視しにくいところです。

外食チェーンでは、厨房、給湯、空調、冷蔵設備を通じて光熱費の影響を強く受けます。それに加えて、複数原料を横断的に使うので、食材原価の複合上昇が起きやすい。テイクアウト比率が高い業態では包材の影響も重なります。価格改定の自由度があるように見えても、競争の強い業態では簡単に上げられないため、実際には値上げ以外の打ち手を多く持っているかどうかで差が出ます。

中食・惣菜は、今回の局面で最も影響を受けやすい業態の一つです。食材、光熱費、冷蔵物流、容器に同時に依存しているからです。値上げだけで乗り切るのは難しく、商品設計そのものの見直しが必要になる可能性があります。

個店飲食店は、規模の小ささゆえに価格交渉力や調達の分散力が弱く、影響を吸収しにくい傾向があります。仕入れ先が限られている場合はなおさらです。今回のような局面では、価格の問題というより、管理体制の差がそのまま収益差になることがあります。数字だけでなく、代替調達やメニュー変更にどれだけ柔軟に動けるかも重要になります。

6.価格上昇より厄介な、現場の運営負荷

こうした外部環境の悪化は、単純に支払いが増えるだけでは終わりません。現場では、オペレーションそのものに負荷がかかります。代替商材を探す、仕入れ先と再交渉する、量目を調整する、メニューを組み替える、売場の構成を変える。在庫を厚く持つべきか、回転を優先すべきかも見直さなければなりません。

つまり、ホルムズ海峡リスクは「価格の問題」であると同時に、「経営の問題」でもあります。コストが上がったぶんだけ値上げして終わり、という話ではなく、仕入れ、商品設計、発注、売場づくり、接客まで含めて調整が必要になる。数字には出にくい一方で、経営力の差が表れやすい領域です。

ここは、店舗運営に近い立場の人ほど実感しやすいところだと思います。経営会議では「値上げをどうするか」が議題になっていても、現場ではその前に「そもそも何を仕入れられるか」「どの代替案なら売場やメニューが成立するか」を考えなければならない。今回のような局面では、その運営負荷も含めてコストだと見ておく必要があります。

さらに言えば、この運営負荷は、短期で終わるならまだしも、高コストと不確実性が長引くほど重くなります。スタッフ教育、原価管理、メニュー更新、販促の見直しが連続すると、現場は疲弊しやすい。つまり今回の問題は、数字の悪化だけではなく、対応し続けること自体が負担になるという側面も持っています。ここを見落とすと、損益計算書だけでは見えない疲れがたまっていきます。

7.いま事業者が見ておくべき指標

こうした局面で重要なのは、ニュースを追い続けることではありません。見るべき数字を決め、自社のどこが弱いかを把握することです。

まず必要なのは、光熱費感応度です。電気代とガス代が1割、2割上がったときに、利益がどれだけ減るのか。これは店舗別、業態別に把握しておくべきです。冷凍冷蔵設備の多い店と、そうでない店では、影響の出方がまったく違います。

次に、上がりやすいカテゴリを先に洗い出しておくことです。青果、乳製品、小麦、食用油、冷凍食品、惣菜容器、洗剤、フィルムなど、外部環境の影響を受けやすいものはある程度決まっています。仕入れ先から通知が来てから考えるより、候補を持っておいたほうが判断は速くなります。

物流費も、原価とは別に追う必要があります。共同配送費、冷凍冷蔵配送費、納品条件の変更、最低ロットの見直しなどは、利益を思った以上に削ります。商品単価だけでなく、運ぶコストまで含めて見ないと実態はつかめません。

包材や消耗品も同じです。細かい項目だからと軽く見ず、月次で単価の変化を追うべきです。毎日使うものほど、じわじわと効きます。

最後に、価格と同じくらい納期を見ることです。単価が少し安くても、納期が不安定な仕入れ先に依存することは、結果として大きな損失につながります。これからは、価格と納期を分けずに管理する発想が必要です。

加えて、今回のような局面では、1週間、1カ月、3カ月という時間軸で損益影響を分けて見ておくと判断しやすくなります。短期では光熱費や物流費が先に効き、中期では食材原価や包材が追いかけてくる。どのタイミングで何が痛むかを先に見ておくと、値上げ、販促、調達、在庫の判断を後手に回しにくくなります。

8.まとめ

ホルムズ海峡リスクを小売業や飲食業の立場で見るとき、注目すべきなのは原油価格だけではありません。むしろ本質は、その先で進む二次コストの変化です。LNGを通じた光熱費、肥料を通じた食材原価、物流費、包装資材、納期。これらが時間差を伴いながら収益構造を圧迫していきます。

2026年4月13日時点の情勢は、全面封鎖と通常運航の中間にある、非常に不安定な局面です。非イラン向け通航は名目上維持される一方、実際の通航量は大きく落ち、そこに米国の対イラン港湾封鎖措置が加わります。小売・飲食がいま前提に置くべきなのは、「完全停止」よりも、高コスト・低流量・高不確実性が続くシナリオです。

だからこそ重要なのは、「封鎖されるかどうか」を議論することではなく、「どこから利益が削られるか」を先に把握しておくことです。ニュースの見出しではなく、自社のPLとオペレーションに引きつけて見る。その視点があるかどうかで、今回の局面への向き合い方は大きく変わります。

参考文献

https://www.fao.org/newsroom/detail/fao-food-price-index-rises-in-march-as-near-east-conflict-raises-energy-costs/en

https://www.iea.org/about/oil-security-and-emergency-response/strait-of-hormuz

この記事の著者

OREND運営事務局|店舗DXの専門家集団

OREND運営事務局|店舗DXの専門家集団

「OREND」は飲食店や小売業界・ネットショップに関する業界トレンドを図解・解説しながらツール紹介を行う専門メディアです。 キャッシュレス決済や予約管理システム・ネットショップ作成ソフトなど、店舗の効率化やECサイトの立ち上げに必要なツールの仕組みや機能・トレンド背景を解説します。

この記事の監修者

中島 崚|店舗DX・IT化の専門家

中島 崚|店舗DX・IT化の専門家

慶応義塾大学商学部卒業後、フロンティア・マネジメント株式会社で地方百貨店やメーカーなどの経営計画策定に従事。その後、スマートキャンプ株式会社でSaaS比較サイト「Boxil」の事業企画としてTツールや業務支援ツール&デバイスを紹介する「ええじゃない課Biz」にコメンテーターとしてレギュラー出演していた。2022年にステップ・アラウンド株式会社にて店舗ビジネス向けメディア「OREND」を監修しながら小売店・飲食店・サービス業全体の業務効率化を目指している。

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