キャッシュレス決済を導入する際は、決済端末、タブレット、POSレジ連携、決済ソフト、初期設定費などの費用が発生します。会計の効率化を進めたい一方で、導入費用の負担が気になる事業者も多いでしょう。
キャッシュレス決済の導入費用は、制度の要件を満たせば補助金や助成金の対象になる場合があります。ただし、すべての補助金がキャッシュレス決済端末や決済サービスの導入費を対象にしているわけではありません。制度ごとに対象や内容などが異なるため、導入前に確認が必要です。
この記事では、キャッシュレス決済導入で確認したい補助金、対象になり得る費用、申請時の注意点を解説します。
キャッシュレス決済導入で使える補助金一覧
キャッシュレス決済導入で確認したい制度は、次の4つです。
| 補助金、助成金 | 優先度 | こんな場合に確認 | 対象になり得る費用 | 補助額の目安 |
| デジタル化・AI導入補助金2026 | 最優先 | 決済サービス、POSレジ 会計ソフトなどをまとめて導入 | 決済機能を含むソフトウェア、 タブレット、レジ、券売機など | 通常枠は最大450万円。 インボイス枠はソフトウェア最大350万円 |
| 自治体独自の補助金 | 最優先 | 決済端末やキャッシュレス機器を導入 | 決済端末、キャッシュレス機器、 多言語対応機器など | 自治体ごとに異なる。 東京都の例では1店舗等あたり上限300万円 |
| 小規模事業者持続化補助金 | 条件付き | キャッシュレス対応を販路開拓や 顧客対応改善につなげる | 決済端末、販促物、店舗改善に関する費用など | 通常枠は最大50万円。 特例で最大250万円の場合あり |
| 業務改善助成金 | 条件付き | キャッシュレス導入で会計時間や 売上集計作業を減らし、賃金引上げも行う | 会計作業や売上管理の効率化に つながる機器・システムなど | 賃上げ額、人数、助成率により変動 |
小企業省力化投資補助金、ものづくり補助金、働き方改革推進支援助成金は、キャッシュレス決済端末を導入するための補助金ではありません。
たとえば、券売機や自動精算機を導入する場合、新しいサービスを始める場合、労働時間の削減につながる設備を入れる場合などは検討できることがあります。しかし、決済端末やキャッシュレス決済サービスの導入だけを目的に使う制度ではないため、この記事では主な補助金から外しています。
デジタル化・AI導入補助金2026
デジタル化・AI導入補助金2026は、中小企業、小規模事業者などの労働生産性向上を目的として、業務効率化やDXに向けたITツールの導入を支援する補助金です。対象となるITツールは、事前に事務局の審査を受け、補助金サイトに登録されたものです。
キャッシュレス決済導入では、決済機能を持つソフトウェア、POSレジ連携、会計連携、インボイス対応ソフトなどが候補になります。インボイス枠では、インボイス制度に対応した「会計」「受発注」「決済」の機能を持つソフトウェア、PC、ハードウェア等の導入が対象として整理されています。
| 項目 | 内容 |
| 制度名 | デジタル化・AI導入補助金2026 |
| 旧制度名 | IT導入補助金 |
| 主な対象 | 中小企業、小規模事業者など |
| 対象になり得る費用 | 決済機能を持つソフトウェア、POSレジ連携、会計連携、タブレット、レジ、券売機など |
| 通常枠 | 1プロセス以上は5万円以上150万円未満、4プロセス以上は150万円以上450万円以下 |
| インボイス枠 | ソフトウェアは最大350万円 |
| ハードウェア | PC、タブレット等は10万円以下。レジ、券売機等は20万円以下 |
| 注意点 | ハードウェアのみの申請は不可。登録ITツールか確認が必要 |
通常枠では、1プロセス以上のITツール導入で5万円以上150万円未満、4プロセス以上で150万円以上450万円以下の補助額が設定されています。補助対象には、ソフトウェア購入費、クラウド利用料、導入コンサルティング、導入設定、導入研修、保守サポートなどが含まれます。
インボイス枠では、ソフトウェアの補助額は50万円以下部分と50万円超から350万円以下部分に分かれます。50万円以下部分は中小企業が3/4以内、小規模事業者が4/5以内、50万円超から350万円以下部分は2/3以内です。PC、タブレット等は10万円以下、レジ、券売機等は20万円以下で、補助率はいずれも1/2以内です。
ただし、ハードウェアのみの申請はできません。PC、タブレット、POSレジ、モバイルPOSレジ、券売機などを補助対象として申請する場合は、そのハードウェアが対象ソフトウェアの使用に必要なものであることが条件です。
自治体独自のキャッシュレス対応補助金
国の補助金とは別に、都道府県や市区町村が独自にキャッシュレス決済、インバウンド対応、店舗DXなどを支援している場合があります。自治体独自の補助金は、対象地域、対象業種、補助率、上限額、申請期限が制度ごとに異なります。
キャッシュレス決済端末やキャッシュレス機器を直接支援する制度は、国の補助金よりも自治体制度のほうが見つかる場合があります。店舗所在地の自治体サイト、商工会議所、商工会、観光関連団体の案内を確認しましょう。
| 項目 | 内容 |
| 制度の種類 | 自治体独自の補助金、助成金、支援制度 |
| 主な目的 | キャッシュレス対応、インバウンド対応、地域DX、店舗DX |
| 対象になり得る費用 | 決済端末、キャッシュレス機器、多言語対応機器、券売機など |
| 補助額 | 自治体ごとに異なる |
| 例 | 東京都のインバウンド対応力強化支援事業補助金など |
| 注意点 | 全国の店舗が使える制度ではない |
たとえば、東京都のインバウンド対応力強化支援事業補助金では、都内の飲食店、小売店、宿泊施設などが対象に含まれ、キャッシュレス機器の導入が補助対象事業として明記されています。補助率は原則1/2以内、多言語対応は2/3以内で、宿泊施設、飲食店、小売店などは1施設、1店舗、1営業所あたり上限300万円です。募集期間は2026年4月1日から2027年3月31日までですが、補助金申請額が予算額に達した時点で受付終了となります。
自治体制度は地域限定の支援策です。全国共通の制度として紹介するのではなく、店舗所在地によって確認すべき補助金として整理しましょう。
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金は、小規模事業者が経営計画を策定し、商工会または商工会議所の支援を受けながら販路開拓などに取り組む際に活用できる補助金です。制度資料では、持続的な経営に向けた経営計画に基づく販路開拓等の取り組みを支援するとされています。
キャッシュレス決済導入では、単に決済端末を導入するだけではなく、顧客利便性の向上、販売機会の拡大、インバウンド対応、会計時間の短縮、リピート促進など、販路開拓や経営改善との関係を示す必要があります。
| 項目 | 内容 |
| 制度名 | 小規模事業者持続化補助金 |
| 主な目的 | 販路開拓、経営改善、業務効率化 |
| 主な対象 | 小規模事業者 |
| キャッシュレス導入との関係 | 顧客対応改善、販売機会拡大、インバウンド対応などと結び付く場合に候補 |
| 補助額 | 通常枠は最大50万円。特例で最大250万円の場合あり |
| 補助率 | 通常2/3。賃金引上げ特例のうち赤字事業者は3/4 |
| 注意点 | キャッシュレス導入単体ではなく、経営計画との関係を示す必要がある |
補助上限は通常50万円で、特例を活用した場合は最大250万円です。インボイス特例では50万円、賃金引上げ特例では150万円が上乗せされます。
申請時には、キャッシュレス決済導入が経営計画の中でどのような役割を持つのかを明確にしましょう。たとえば、現金のみで取りこぼしていた顧客層への対応、訪日客の決済ニーズへの対応、会計時間の短縮による接客強化などです。
業務改善助成金
業務改善助成金は、事業場内最低賃金の引上げと、生産性向上に資する設備投資などをセットで支援する助成金です。厚生労働省は、設備投資などにかかった費用に一定の助成率をかけた金額と助成上限額を比較し、いずれか低い金額が助成されると説明しています。
キャッシュレス決済導入では、会計時間、レジ締め、売上集計、現金管理、会計ソフトへの転記作業などの削減につながる場合に候補になります。ただし、キャッシュレス端末を導入すれば必ず対象になるわけではありません。生産性向上に資する設備投資として認められること、さらに事業場内最低賃金の引上げを行うことが前提です。
| 項目 | 内容 |
| 制度名 | 業務改善助成金 |
| 主な目的 | 賃金引上げ、生産性向上 |
| 主な対象 | 中小企業、小規模事業者の事業場 |
| キャッシュレス導入との関係 | 会計時間、売上集計、現金管理などの効率化につながる場合に候補 |
| 助成額 | 賃上げ額、人数、助成率により変動 |
| 2026年の確認点 | 令和8年度の交付申請受付開始日は2026年9月1日 |
| 注意点 | 事業場内最低賃金の引上げが必要。労働者がいない事業場は対象外 |
令和8年度の業務改善助成金は、2026年4月22日に交付要綱、要領が公開され、交付申請の受付開始日は2026年9月1日と案内されています。また、労働者がいない場合は助成対象外であり、事業場内最低賃金の引上げや設備投資はこれから実施するものが対象です。
キャッシュレス決済導入を理由に申請する場合は、現金管理やレジ締め作業がどの程度減るのか、売上集計や会計処理がどのように効率化されるのかを整理しましょう。
キャッシュレス決済導入で補助対象になり得る費用
キャッシュレス決済導入で補助対象になり得る費用は、決済端末やキャッシュレス機器だけではありません。制度によっては、タブレット、POSレジ、券売機、キャッシュレス決済サービスの導入費、初期費用、導入サポート費、月額費用などが対象になる場合があります。
一方で、決済手数料のように売上に応じて継続的に発生する費用は、対象外になる場合が多いため注意が必要です。
| 費用項目 | 補助対象になる可能性 | 注意点 |
| 決済端末、キャッシュレス機器 | あり | 自治体制度などで対象になる場合がある。国の補助金ではソフトやシステムとあわせた導入が前提になる場合がある |
| タブレット、PC | あり | 制度によって上限がある。単体では対象外になる場合がある |
| POSレジ、券売機 | あり | 決済対応やインボイス対応とあわせて導入する場合に対象候補になる |
| キャッシュレス決済サービスの導入費 | あり | 決済アプリ、決済システム、初期導入費などが対象になる場合がある。登録ITツールか確認が必要 |
| 初期費用、導入サポート費 | あり | 初期設定、連携設定、操作説明、導入時のサポート費などが対象になる場合がある |
| 月額費用 | 制度による | クラウド利用料やサービス利用料が対象になる場合がある。対象期間や上限を確認する |
| 決済手数料 | 対象外になる可能性が高い | 売上に応じて継続的に発生する費用のため、対象外になる場合が多い |
キャッシュレス決済導入で補助金を使う流れ
キャッシュレス決済導入で補助金を使う場合は、先に契約してから申請するのではなく、制度確認、申請、交付決定、導入、実績報告の順番で進めるのが基本です。
- 導入したいキャッシュレス決済サービスを整理する
- 決済端末、ソフトウェア、POS連携などの費用を確認する
- 利用できる補助金、助成金を確認する
- 対象経費、補助率、上限額、申請期限を確認する
- 必要に応じてGビズIDプライムを取得する
- 決済サービス事業者、IT導入支援事業者、商工会議所、商工会などに相談する
- 見積書、事業計画書、必要書類を準備する
- 交付申請を行う
- 採択または交付決定を受ける
- 交付決定後に契約、発注、支払いを行う
- キャッシュレス決済を導入する
- 実績報告を行う
- 補助金、助成金を受け取る
制度によって申請方法や必要書類は異なります。デジタル化・AI導入補助金2026では、登録されたIT導入支援事業者と申請を進める必要があります。小規模事業者持続化補助金では、商工会または商工会議所の支援を受けながら経営計画を作成します。
キャッシュレス補助金を利用する際の注意点
決済端末だけで補助対象になるとは限らない
キャッシュレス決済端末を導入する場合でも、端末単体で補助対象になるとは限りません。デジタル化・AI導入補助金2026のインボイス枠では、ハードウェアを補助対象として申請する場合、そのハードウェアが対象ソフトウェアの使用に必要なものであることが条件です。また、ハードウェアのみの申請はできません。
一方で、自治体独自の補助金では、キャッシュレス機器の導入が対象事業として明記されている場合があります。東京都のインバウンド対応力強化支援事業補助金では、クレジットカード、電子マネー、多通貨決済などのキャッシュレス機器導入が対象事業に含まれます。
交付決定前に契約、発注、支払いをしない
補助金や助成金では、交付決定前に契約、発注、支払いをした費用が対象外になる場合があります。導入を急いでいる場合でも、申請前に決済端末を購入したり、サービス契約を結んだりしないよう注意しましょう。
見積取得は申請準備として必要になる場合がありますが、契約や支払いのタイミングは制度ごとに確認が必要です。決済サービス事業者や支援機関に、補助金を利用する予定があることを事前に伝えておくと手続きが進みます。
補助金は原則後払い
補助金や助成金は、申請してすぐに入金されるものではありません。多くの場合、交付決定後にキャッシュレス決済を導入し、支払いを済ませ、実績報告を行った後に支給されます。
そのため、補助金を使う場合でも、導入時点では一時的に自己資金で支払う必要があります。端末費用、ソフトウェア費用、初期設定費、月額利用料などの支払い時期を確認し、資金繰りを考えておきましょう。
決済手数料は対象外になる場合が多い
キャッシュレス決済では、導入費用のほかに決済手数料が発生します。決済手数料は、売上に応じて継続的に発生する取引費用です。補助金では、導入費、初期設定費、ソフトウェア費、機器費などが対象になる一方で、決済手数料は対象外になる場合があります。
ただし、制度によって対象経費の扱いは異なります。月額利用料、クラウド利用料、保守費、手数料の扱いは、公募要領や申請の手引きで確認しましょう。
公式情報と公募要領を必ず確認する
補助率、上限額、対象経費、申請期限は、年度や公募回によって変わります。自治体制度は予算に達した時点で受付が終了する場合もあります。東京都のインバウンド対応力強化支援事業補助金でも、補助金申請額が予算額に達した時点で受付終了になると案内されています。
申請前には、公式サイト、公募要領、申請の手引き、支援事業者、自治体窓口の案内を確認しましょう。古い記事や過去年度の制度情報をもとに申請準備を進めると、制度名、補助額、申請期限、対象経費が現在の内容と異なる場合があります。




