ドミナント戦略とは
ドミナント戦略とは特定の商圏エリアに対して集中的に出店を行い、効率的に地域の認知度や市場シェアの獲得を狙う店舗の経営戦略を指します。
経営資源を効果的に配分することで市場独占を狙える一方、地域環境に依存するリスクもあります。
今回はドミナント戦略の意味やメリット・デメリット、成功事例について解説しながら、近年メディアなどでも取り上げられること増えた問題を深堀ります。
ドミナントの意味
ドミナント( dominant )は日本語に訳すと「支配的な」、「独占的な」といった意味があります。
ドミナント戦略で連想する店舗といえば、スターバックスやセブンイレブンかと思います。飲食店や小売といった店舗ビジネス場合は、人口や所得といった商圏属性によって売上が大きく左右されます。
限られた有望商圏の拡大していくには、競合店舗からのシェア獲得が必要になります。また限られた経営資源を集中的に配分・投下することができるため、経営効率の部分でも効果的とえいます。
一点集中で弱者が強者に勝つ、ランチェスター戦略
ランチェスター戦略とは、「同じ武器を使っているなら、勝敗は兵の数で決まる」という考え方を軸にした戦略です。狭い範囲での戦いでは人数よりも武器(一人ひとりの能力や企業としての戦略、アセット)が、広い範囲での戦いでは武器よりも人数(企業としての規模)がより重要という考え方のもと、事業戦略を打ち出します。
この考え方をベースに、特定のエリア(狭い範囲)に集中出店し、自社で支配できるエリアを少しずつ増やしていくのがドミナント戦略です。
TVでも波紋、オーナーが苦しむセブンイレブンのドミナント戦略の問題点とは何か
近年TVやビジネスメディアでも取り上げられている、セブンイレブンとドミナント戦略。
市場データを踏まえながら、ドミナント戦略の課題点について紹介します。
全国約6万店、ドミナント戦略で増え続けるコンビニの店舗数
ドミナント戦略によりコンビニの店舗数は年々増加傾向にあり、1990年までは、全国に約2万店以下の店舗数でしたが、2023年時点では6万店舗に迫る勢いとなっています。
自社ブランド商品による顧客のファン化やインフラサービスとの連携も充実し、商品の品揃えだけでなくコンビニは消費者にとっての利便性も非常に高まっているといえます。
また都心での単身世帯や健康ニーズに即した商品開発も取り組むことで、顧客ニーズを満たしていることも、右肩上がり成長を支えている要因でしょう。
出店が競合を呼ぶ、ドミナントが引き起こすレッドオーシャン
フランチャイズ運営側からすると、ニーズのあるエリアに対して出店計画を推進することは、当然といえます。一方でドミナント出店は各店舗にとっては競合が増えることになり、レッドオーシャンな状態を引き起こしています。
エリアによっては、店舗の2km圏内に10店舗のセブンイレブンが密集していることも、この数年で増えている。
各エリアを独占しようとする動きを見せるセブンに対して、競合店舗も動き出すことになり1km圏内にローソンやファミリーマートが出店。結果として、近隣エリアはコンビニの激しい顧客獲得が起こります。
コンビニオーナー側として近くに新たなコンビニが建つことは恐怖心であることは間違いないと言えるでしょう。
企業とオーナーのギャップ、利益共有ができない個人店の陣取り合戦
また、問題となるのは競合店舗の進出だけではありません。本部である企業側とコンビニを経営するオーナー側では、認識のギャップが生じています。
1人の個人オーナーがドミナント戦略を実施する場合は地域内の消費者の獲得が可能ですが、店舗オーナーが異なる場合は店舗間での競争も発生してしまいます。
コンビニ業界という点では、こうした競争はうまく機能しているいえますが、オーナーという観点では陣取り合戦になっているといえます。
こうした状況下でも人口減少は進んでおり、サービスや利便性の拡充に伴いアルバイトに求められる要件も徐々に高度化しています。
同じ看板を掲げているかに関わらず、店舗が増え競争が激化すると店を閉めるわけにもいきません。
人口減少に加えて引き起こされる人材難
加えてフランチャイズシステム方式は、加盟店としてロイヤリティを支払うという粗利に対しての料率計算となるため、売上が下がれば採用にコストをかけられない負のスパイラルとなります。
人口減少だけでなく採用難となった結果、オーナーや家族が働きっぱなしになるといった状態を引き起こすのです。
集中出店によるドミナント戦略の4つのメリット
ドミナント戦略における主なメリットは、経営資源の集中投下による効率化をはかることで売上を高めることが可能です。
- 特定地域の密集による認知度の向上
- 参入障壁を高め競争優位性を確保
- 販促・エリア戦略の最適化
- 店舗管理・配送の効率化
上記の4つにいて紹介していきます。
特定地域の密集による認知度の向上
ドミナント戦略では特定の地域に密集することで、認知度の向上が期待できます。
店舗がさまざまなエリア出店している場合は、広く消費者にアプローチできるメリットもありますが、分散してしまうこともデメリットです。
しかし、特定地域に対してプロモーションや販促・TVCMなどを発信し、集中的にマーケティング戦略を実行が可能です。
また地域の消費者が自社のブランドを頻繁に目にする機会が増えることも期待ができます。
参入障壁を高め競争優位性を確保
ドミナント戦略を進めていく中で、その地域での知名度を圧倒的なものにまで築くことができれば、競争優位性を確保することもできます。
特定地域における認知度や評価といった圧倒的な地位確率ができれば、消費者が自社の商品を習慣的に購入してくれることが期待できるため囲い込みが可能です。
また、地域戦略として成功していくことで配送やオペレーションといったコストも効率化ができるため価格も優位な状態で戦うことができます。
販促・エリア戦略の最適化
ドミナント戦略を行っていくことは、販売やエリア戦略を最適化にもつながります。
ドミナント戦略では出店・販売戦略も特定エリアも明確にするため、ターゲットとなる消費者の年齢や洗剤ニーズなどより深い戦略をたてることができます。
そのため市場調査やエリアマーケティングも集中的に実施できるため、新商品の企画や販売促進・マーケティング戦略の最適化を図れるようになります。
エリアマーケティングの詳細はこちら。
店舗管理・配送の効率化
地域が限定されていれば、店舗管理や配送効率のアップにも繋ります。
店舗同士が離れている場合は、どうしても配送距離が長くなりコストも高くなります。また、鮮度の高い商品を届けるといった部分でも優位性が確保できます。
また、各店舗の経営状況について見て回るスーパーバイザーの移動も店舗が固まっていれば効率良く巡回できるため、店舗管理の効率化にもつながります。
陣取り合戦状態?ドミナント戦略の3つのデメリット
効率化な経営資源の分配ができる一方で、ドミナント戦略にはデメリットもあります。
- 店舗間で顧客の奪い合いが生じてしまう
- 災害時のリスクヘッジが難しい
- 1店舗あたりの売上減少によるリスクがある
次は3つのデメリットについて紹介していきます。
店舗間で顧客の奪い合いを生む
ドミナント戦略では同一エリアに出店を行うため、店舗間における顧客の奪い合いが生じてしまうこともあります。
同じ店名でありながら競合店ではなく同じ店舗間でシェア獲得を行うことになります。
競争意識が働けば良いですが、店舗ごとの販促手法やナレッジの共有が弱くなり、属人化してしまうことも想定されます。
効率的な戦略がとれるようある程度は店舗間の競争意識も必要といえますが、ノウハウのシェアなどはスーパーバイザーや、エリア統括を設置し属人化をさけるようにする必要がります。
災害時のリスクヘッジが難しく、地域環境に依存する
ドミナント戦略は、災害時によるリスクもあります。
同じ出店エリア内に多くの店舗が展開していると、その地域にで災害が起きると一斉に被害が拡大してしまい、売上の大きな打撃になります。
また、地震発生の場合には配送ルートが途絶え店舗が復旧しているとしても、商品が届かないといったことも想定されるため、売上が戻るまで更に時間を要することも考えられます。
加えて地域性に依存するため、人口減少が進んでくるような過疎地域では企業自体の売上悪化が起こります。エリア戦略では将来性が非常に重要とえいます。
1店舗あたりの売上減少リスク
ドミナント戦略を進めていくことは、1店舗あたりの売上を減少させてしまうリスクもあります。
ドミナント戦略を推進していくと、同一のエリア内での店舗数を増えていくと、エリア内における1店舗あたりの売上減少に繋がってしまうこともあります。
人口成長が見込まれるエリアでは起こりにくいですが、ある程度の段階で次の選定エリアを決めていくことも必要です。
エリア戦略としてドミナントを成功させる3つのポイント
エリア戦略としてドミナントを成功させるためには、どのような点に注意すればよいのでしょうか。
- 出店エリアの人口成長、将来性の把握
- 地域特性や文化を踏まえた需要予測・分析
- 競合の出店戦略・出店状況を抑える
成功の各ポイントについて紹介していきます。
出店エリアの人口成長、将来性の把握
エリア戦略としてドミナントを成功させるポイントの1つ目は、出店エリアの人口成長や将来性を把握することです。
特定エリアに集中して出店を行うドミナント戦略では、人口が減少傾向にある地域に集中的に出店しても、中長期的な効果は期待しずくなります。
具体的的には都心の周りにあるベッドタウンといった人口が増加傾向にある地域や、道路や鉄道などの交通機関が多く今後も発展が見込まれる地域を対象にして調査をしていくことで、その地域の状態を把握していくことが大切です。
地域特性や文化を踏まえた需要予測・分析
2つめのポイントは、出地域の特性や文化を踏まえた需要予測や分析を行うこともです。
次なる出店エリアの検討も大切ですが、自社製品と出店する地域属性が適しているかという点も大切なポイントで、 その地域にとって需要性がなかった場合は成功は期待できません。
そのため出店計画を行う場合は綿密な商圏分析を行い、需要予測や人口特性も踏まえて戦略を練る必要があります。
商圏分析の詳細はこちら。
競合の出店戦略・出店状況を抑える
3つ目のポイントとして欠かすことのできないのが、競合の出店戦略や出店状況を抑えることです。
これら開拓をしようとする地域に対して、既存の会社や店舗が集中している状況では、今後進めていく中で需要を得ることが難しいことも予想されます。
競合優位性を高めるドミナント戦略において、既に特定の連想企業やサービスがあるという場合に覆していくことは非常に時間とコストがかかります。
競合とされる企業や店舗が存在しない地域を見つけ出し、その地域をいち早く開拓することが大切です。
ドミナント戦略の成功事例
ドミナント戦略の問題点について解説してきましたが、コンビニ業界以外でも実施され成功している事例もあります。
函館のオンリーワン:ラッキーピエロ
函館にあるバーガーショップであるラッキーピエロは、ドミナント戦略を成功させた企業の1つです。
ドミナント戦略を行うことで配送コストを削減し、地域に集中的に展開したことで、知名度を高め、その後の競合の参入がしにくい環境を構築させています。
函館市オンリーワンを掲げ地域に根差した戦略をとったことで、口コミが広がり「全国ご当地バーガー」では1位となっています。
詳細はこちら:https://www.pqnavi.com/reports/view/1461
食材のロスの大幅カットに成功:一歩一歩
一歩一歩は、寿司居酒屋・炉端焼き居酒屋・唐揚げ製作所を展開する飲食店です。こちらの成功例としてはドミナント戦略をとることで配送効率を高めた結果食材のロスを削減し、食材管理を徹底できている点です。
出展エリアを集中したことで、物流コスト、店舗管理の効率化に加えて食材の品質を高めることにつながりました。厨房スタッフの料理研修などもセット実施した結果、顧客満足度も向上し店舗間の味もブレも防げる効果もありました。
短期間で細かなオペレーション改善が実施できる点は、ドミナント戦略の特徴といえます。
参考:https://eatas.jp/article/25
CMなし、新宿に30店舗?顧客体験で満足度が高いスターバックス
スターバックスもドミナント戦略の成功例として、非常に有名です。
「顧客に対して心地よい空間とコーヒー」を価値提供することで大きく事業を伸ばしていますが、こうした今までと違った価値を訴求するためにブランドイメージをうまく浸透させています。
CMを流さないなかで、顧客満足度を高く保ちつつブランドイメージを確立している成功例といえます。
これは、ドミナント戦略を基に、駅近くに複数の店舗を配置し、人々の目に入るよう宣伝効果を出している。
コンビニだけではない?小売業界を取り巻く課題
コンビニ業界が直面している課題は限定的なものではなく、小売業界を取り巻くものといえます。
サービス・店舗業界を中心とした顧客満足の慣習は、ビジネスとして成り立たなない領域まで行っている場合もあります。
ドミナント問題の本質は人材難をいかに攻略するか
サービス品質を高める一方で、人口は減少し特に地方での人手不足は深刻化しています。
24時間営業は消費者にとっては非常に利便性が高いものですが、サービス提供の人材と出店が釣り合っていない状態といえます。
サービス水準を担保しながらスケールしていくには、作業効率や業務プロセスなど何らかの形でスリム化を行っていくことが必要となるでしょう。
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