掛売りとは、商品やサービスを提供した時点では代金を受け取らず、あらかじめ決めた支払期日にまとめて代金を受け取る取引方法です。
企業間取引では、取引のたびに現金で決済するのではなく、「月末締め・翌月末払い」のように一定期間の取引をまとめて請求する方法が広く利用されています。掛売りで商品やサービスを販売すると、販売側には入金までの間「売掛金」が発生します。
掛売りには、取引のたびに決済する手間を減らし、継続取引を行いやすくするメリットがあります。一方で、販売側には代金を回収できないリスクがあるため、取引先の与信確認や請求・入金管理が重要です。
本記事では、掛売りの意味や仕組み、売掛・売掛金・請求書払いとの違い、メリット・デメリット、未回収リスクを抑える方法までわかりやすく解説します。
掛売りとは?代金を後日まとめて受け取る取引方法
掛売りとは、商品やサービスを先に提供し、代金を後日決められた期日に受け取る取引方法です。
たとえば、取引先へ毎月複数回商品を納品している場合、納品するたびに支払いを受けるのではなく、1か月分をまとめて請求できます。
具体的には次のような流れです。
- 4月中に複数回商品を納品する
- 4月30日で取引金額を締める
- 5月初旬に請求書を発行する
- 5月31日に代金を受け取る
このような「月末締め・翌月末払い」は、掛売りの代表的な形です。
掛売りでは、販売側が商品やサービスを提供してから実際に代金を受け取るまで時間差が生じます。そのため、取引先が期限どおりに支払うことを前提とした信用取引としての性質があります。
掛売りの代表例は請求書払い
企業間取引でよく利用される掛売りの方法が、請求書払いです。
一定期間の取引を締め日で集計し、販売側が請求書を発行します。購入側は、請求書に記載された支払期限までに銀行振込などで代金を支払います。
たとえば、
- 末締め・翌月末払い
- 20日締め・翌月20日払い
- 末締め・翌々月末払い
など、取引先との契約によってさまざまな支払条件が設定されます。
掛売りを始める際は、金額だけでなく、締め日・支払日・支払方法まで明確に決めておくことが重要です。
掛売りと売掛・売掛金の違い
掛売りは「取引方法」、売掛は「代金をまだ回収していない状態」、売掛金は「未回収代金を表す会計上の勘定科目・債権」です。
似た言葉ですが、意味は異なります。
| 用語 | 意味 |
| 掛売り | 商品・サービスを先に提供し、代金を後から受け取る取引方法 |
| 売掛 | 販売した代金をまだ回収していない状態を表す言葉 |
| 売掛金 | 掛売りなど本業の営業取引から発生した未回収代金 |
| 掛け払い | 後日まとめて代金を支払う決済方法・支払い方法 |
| 請求書払い | 請求書を発行し、指定期日までに代金を支払ってもらう方法 |
たとえば、10万円の商品を取引先へ販売し、翌月末に支払ってもらうとします。
この場合、
「翌月末払いで商品を販売すること」=掛売り
であり、
「入金されるまで残っている10万円」=売掛金
です。
掛売りという取引を行った結果、販売側に売掛金が発生すると考えると理解しやすいでしょう。
掛売りと掛け払いの違い
「掛売り」と「掛け払い」は、同じ取引を販売側と購入側の異なる立場から表現する言葉として使われることがあります。
販売側から見ると、商品やサービスを先に提供して後から代金を受け取るため「掛売り」です。
購入側から見ると、先に商品やサービスを受け取り、後から支払うため「掛け払い」と表現されます。
たとえば、
- A社がB社へ商品を販売する
- B社は翌月末に代金を支払う
場合、
A社側では「掛売り」、B社側では「掛け払い」と捉えられます。
ただし、サービス名称などでは「BtoB掛け払い」のように、販売側の請求・回収サービスを含めて「掛け払い」と呼ぶケースもあります。
そのため、実務では言葉だけで判断せず、**「誰が・いつ商品を提供し、誰が・いつ代金を支払うのか」**を確認することが重要です。
掛売りと後払いの違い
掛売りも後払いも「商品・サービスを受け取った後に支払う」という点では共通しています。
ただし、一般的には掛売りは企業間の継続取引、後払いはより広い意味で使われることが多いという違いがあります。
企業間では、1か月分の取引をまとめて請求する掛売りがよく使われます。
一方、「後払い」は個人消費者向けECなどで、商品を受け取った後にコンビニや銀行などから支払う仕組みを指す場合もあります。
ただし「掛売り」と「後払い」には法令上の統一された呼び分けがあるわけではなく、サービスや取引によって使われ方が異なります。
そのため、
- 法人取引なのか
- 個人向け取引なのか
- 複数取引をまとめて請求するのか
- 1回の購入ごとに後払いするのか
で確認すると違いを整理しやすくなります。
掛売りと買掛の違い
掛売りと買掛は、同じ取引を販売側と購入側から見た違いです。
販売側にとって未回収の代金は売掛金になります。
一方、購入側にとって後日支払う必要がある代金は買掛金になる場合があります。
たとえば、A社がB社へ商品を100万円で掛売りした場合、
A社
商品を販売した側なので、
売掛金100万円
が発生します。
B社
商品を仕入れた側なので、
買掛金100万円
が発生します。
つまり、同じ100万円の取引でも、
- 販売側:売掛金
- 購入側:買掛金
という関係になります。
掛売り取引の基本的な流れ
掛売りを行う場合は、商品やサービスを販売する前から取引条件と信用リスクを管理することが重要です。
一般的には、次のような流れで取引します。
1. 取引先の信用状況を確認する
掛売りでは商品やサービスを先に提供するため、販売側には代金を回収できないリスクがあります。
そのため、新しい取引先と掛売りを始める場合は、
- 会社情報
- 事業内容
- 取引実績
- 支払い能力
- 過去の支払状況
などを確認します。
取引先ごとに「いくらまで掛売りを認めるか」という与信限度額を設定する方法もあります。
2. 支払条件を決める
取引開始前に、
- 締め日
- 支払日
- 支払方法
- 振込手数料の負担
- 与信限度額
- 支払遅延時の対応
などを決めます。
トラブルを防ぐためにも、契約書や取引基本契約書、発注書などで確認できる状態にしておくことが重要です。
3. 商品・サービスを提供する
契約内容に基づいて商品を納品したり、サービスを提供したりします。
掛売りの場合、この段階では販売代金を受け取らないことがあります。
4. 取引金額を確定する
締め日になったら、その期間中に行った取引を集計します。
たとえば「月末締め」であれば、その月の1日から末日までに発生した取引をまとめます。
5. 請求書を発行する
確定した取引金額をもとに請求書を発行します。
請求内容に誤りがあると入金が遅れる原因になるため、
- 取引内容
- 請求金額
- 支払期限
- 振込先
などを正確に記載します。
6. 入金を確認する
支払期限になったら、銀行口座などで入金を確認します。
複数の請求をまとめて入金する取引先や、振込名義と会社名が異なる取引先もあるため、請求データと照合します。
7. 売掛金を消し込む
入金が確認できたら、どの請求に対する支払いなのかを特定し、売掛金残高から差し引きます。
この作業を入金消込といいます。
入金されていない売掛金が残っている場合は、支払期限を確認し、必要に応じて取引先へ連絡します。
掛売りのメリット
掛売りには、販売側・購入側の双方にメリットがあります。
特に、取引件数が多い企業間取引では、支払いをまとめることで日々の決済業務を減らせます。
取引ごとの決済作業を減らせる
掛売りを利用すれば、商品を購入するたびに振込や現金決済を行う必要がありません。
たとえば、1か月に20回取引する企業でも、月末にまとめて請求すれば、支払いを1回に集約できます。
販売側も請求・入金確認をまとめやすくなるため、適切に運用すれば双方の事務負担を軽減できます。
継続取引を行いやすい
継続的に商品を仕入れたりサービスを利用したりする企業にとって、毎回前払いする仕組みは負担になる場合があります。
掛売りで一定期間の取引をまとめて支払えるようにすると、継続的な取引を行いやすくなります。
購入側の資金繰りに余裕が生まれやすい
購入側は商品やサービスを受け取った後に支払うため、支払いまで一定の猶予があります。
たとえば、仕入れた商品を販売して代金を回収した後に仕入代金を支払える場合、資金繰りを調整しやすくなります。
ただし、支払期日になれば必ず代金を支払う必要があります。
手元資金を超える取引を安易に行うのではなく、将来の支払予定と資金繰りを管理することが重要です。
取引先の希望する決済条件に対応しやすい
法人取引では、取引先側の経理処理や支払サイクルが決められていることがあります。
掛売りに対応していれば、
「請求書払いで取引したい」
「月末締めでまとめて支払いたい」
といった取引条件にも対応しやすくなります。
ただし、「掛売りに対応すれば必ず売上が増える」とは限りません。
取引機会を広げる可能性がある一方、未回収リスクも増えるため、売上機会と信用リスクの両方を考える必要があります。
掛売りのデメリット・リスク
掛売りの最大の注意点は、商品やサービスを提供した時点では、代金を受け取れていないことです。
販売側には、未回収リスクや管理業務の負担が発生します。
売掛金を回収できない可能性がある
掛売りでは、取引先が支払期限までに代金を支払うことを前提として取引します。
しかし、
- 取引先の資金繰り悪化
- 業績悪化
- 倒産
- 請求内容を巡るトラブル
などによって、支払遅延や未回収が発生する可能性があります。
売上として計上していても、代金を回収できなければ企業の資金繰りに影響します。
与信管理が必要になる
掛売りを無制限に認めると、信用力の低い取引先への売掛金が増える可能性があります。
そのため、
- 新規取引時の審査
- 与信限度額の設定
- 支払実績の確認
- 定期的な与信見直し
などが必要です。
取引開始時には問題がなかった企業でも、業績や財務状況が変化することがあります。
長期取引先についても支払状況を継続的に確認しましょう。
請求・入金管理の負担が増える
掛売りでは、
- 取引データの集計
- 請求書発行
- 入金確認
- 入金消込
- 未入金確認
- 督促
- 売掛金残高管理
などの業務が発生します。
取引先や請求件数が増えるほど、Excelや手作業だけでは管理が難しくなる場合があります。
売上と現金の入金時期がずれる
掛売りでは、売上が発生してから実際に入金されるまで時間差があります。
その間にも、
- 仕入代金
- 人件費
- 家賃
- 税金
- その他の経費
などの支払いは発生します。
売上が増えていても売掛金の回収が遅いと手元資金が不足する可能性があるため、資金繰り管理も必要です。
掛売りの未回収リスクを抑える方法
掛売りのリスクをゼロにすることはできませんが、取引前・取引中・支払期限後の管理を適切に行うことでリスクを抑えられます。
新規取引先の与信を確認する
新規取引先だからといって、最初から高額な掛売りを認める必要はありません。
信用情報や事業実態を確認し、必要に応じて少額から取引を始めます。
取引先ごとに与信限度額を設定する
取引先ごとに掛売りできる上限金額を決めておけば、一社に対する売掛金が過度に膨らむことを防ぎやすくなります。
たとえば、与信限度額を100万円に設定している場合、未回収残高が100万円へ近づいた段階で追加取引を確認します。
支払条件を明文化する
掛売りを始める前に、
- 締め日
- 支払期限
- 支払方法
- 支払遅延時の対応
を明確にします。
特に新規取引では「いつまでに払ってもらうのか」が曖昧にならないよう注意しましょう。
売掛金残高を定期的に確認する
売掛金は総額だけでなく、
- 取引先
- 金額
- 発生日
- 支払期限
- 遅延日数
などで管理します。
支払期限を超えた債権をすぐ発見できる状態にしておくことが重要です。
入金遅延が発生したら早めに確認する
支払期限を過ぎても入金されない場合は放置せず、取引先へ確認します。
単純な振込忘れや請求書の処理漏れである可能性もありますが、遅延を繰り返している場合は取引条件の見直しも必要です。
掛売りを始める前に決めておくこと
掛売りを導入する場合は、「後払いにする」だけでは不十分です。
最低限、次の項目を決めておきましょう。
| 項目 | 確認する内容 |
| 対象取引先 | どの企業に掛売りを認めるか |
| 与信限度額 | 最大いくらまで販売するか |
| 締め日 | 請求額を確定する日 |
| 支払期限 | いつまでに支払ってもらうか |
| 支払方法 | 銀行振込、口座振替など |
| 振込手数料 | どちらが負担するか |
| 請求方法 | 郵送、メール、電子請求書など |
| 入金確認 | 誰がいつ確認するか |
| 遅延時の対応 | いつ連絡・督促するか |
| 取引停止条件 | どの状態で掛売りを停止するか |
特に重要なのが与信限度額と支払期限です。
売上を増やすために掛売りを広げすぎると、売掛金残高も増えます。
売上だけではなく、
「いくら販売したか」→「いくら回収できたか」
までセットで管理することが重要です。
掛売り管理を効率化する方法
取引先が少ない段階では、表計算ソフトなどでも掛売りを管理できます。
しかし取引先や請求件数が増えると、請求・入金・消込を手作業だけで処理する負担が大きくなります。
その場合は、業務内容に応じてシステムや外部サービスを利用する方法があります。
会計ソフト
売掛金残高や入金仕訳を管理したい場合に利用します。
請求書発行システムや銀行口座と連携できるサービスであれば、入力作業を削減できる場合があります。
請求書発行システム
請求書の作成・送付・保存を効率化できます。
大量の請求書を毎月発行している企業では、請求漏れや入力ミスの削減にも役立ちます。
債権管理・入金消込システム
請求データと入金データを照合し、取引先ごとの売掛金残高を管理するシステムです。
取引件数が多い企業では、手作業での消込負担を減らせる場合があります。
請求代行・掛け払いサービス
与信審査、請求書発行、入金確認、督促などを外部へ委託できるサービスもあります。
対応範囲はサービスによって異なり、売掛金の保証まで含むものもあります。
ただし、手数料や利用条件があるため、
- 与信だけ任せたい
- 請求書発行を任せたい
- 回収・督促まで任せたい
- 未回収リスクまで抑えたい
など、自社が外部化したい業務を明確にしてから比較するとよいでしょう。
掛売りに関するよくある質問
掛売りとは簡単にいうと何ですか?
掛売りとは、商品やサービスを先に提供し、代金を後日まとめて受け取る取引方法です。企業間では、月末締め・翌月末払いなどの支払条件がよく利用されます。
掛売りと売掛の違いは何ですか?
掛売りは「後払いで販売する取引方法」を指し、売掛は「販売した代金をまだ回収していない状態」を表します。掛売りによって発生した未回収代金は、会計上「売掛金」として管理します。
掛売りと売掛金の違いは何ですか?
掛売りは取引方法、売掛金は掛売りなどによって発生した未回収代金を表す勘定科目です。
たとえば10万円の商品を翌月末払いで販売した場合、翌月末払いで販売することが掛売りで、回収まで残っている10万円が売掛金です。
掛売りと請求書払いは同じですか?
完全に同じ意味ではありません。
掛売りは「代金を後から回収する取引方法全体」を指し、請求書払いは掛売りを運用する代表的な支払方法の一つです。
掛売りと後払いの違いは何ですか?
どちらも後から代金を支払う仕組みです。
一般的には掛売りは企業間の継続取引、後払いは企業間取引だけでなく個人向けECなどを含めて広く使われる傾向があります。ただし、厳密に統一された呼び分けではないため、各サービスや契約内容を確認する必要があります。
掛売りのメリットは何ですか?
一定期間の取引をまとめて請求できるため、取引のたびに決済する手間を減らせます。また購入側は、支払いまで一定期間の猶予を確保できます。
掛売りのデメリットは何ですか?
販売側に支払遅延・未回収リスクが発生することです。
さらに、与信審査、請求書発行、入金確認、入金消込、督促などの管理業務も必要になります。
新規取引先にも掛売りで販売してよいですか?
必ず掛売りにする必要はありません。
信用情報が少ない取引先や高額取引の場合は、
- 少額から取引する
- 与信限度額を設定する
- 前払いにする
- 一部前金にする
などの方法も検討します。
掛売り代金を支払ってもらえない場合はどうすればよいですか?
まず請求内容と入金状況を確認し、取引先へ支払予定日を確認します。
支払いが長期間行われない場合は、取引の停止や専門家への相談を検討します。回収不能となった売掛金の会計・税務処理には要件があるため、必要に応じて税理士などの専門家へ確認してください。
まとめ|掛売りは売上だけでなく回収まで管理することが重要
掛売りとは、商品やサービスを先に提供し、代金を後日まとめて受け取る取引方法です。
企業間の継続取引では便利な仕組みですが、販売側は代金をまだ受け取っていない状態で商品・サービスを提供するため、支払遅延や未回収のリスクがあります。
掛売りを安全に運用するためには、
- 取引先の信用状況を確認する
- 与信限度額を設定する
- 締め日・支払期限を明確にする
- 売掛金残高を取引先別に管理する
- 入金遅延を早期に把握する
- 必要に応じて取引条件を見直す
ことが重要です。
取引先や請求件数が増え、請求書発行・入金確認・消込・督促の負担が大きくなっている場合は、会計ソフトや債権管理システム、請求代行・掛け払いサービスなどを活用し、掛売り管理を仕組み化する方法も検討するとよいでしょう。




