近年は、国が副業・兼業を促進していることもあり、副業する人が増えてきました。そこで疑問に思うのが「副業でも開業届を提出しなければならないのか」ということです。本記事では、開業届の必要・不要なケースや副業するうえで知っておきたい情報をまとめて解説していきます。
副業を始めたら、基本的に開業届は提出しなければならない
開業届とは、正式には「個人事業の開業・廃業等届出」といい、新たに事業を開始したとき、事業用の事務所・事業所を新設、増設、移転、廃止したとき又は事業を廃止したときに所轄の税務署に提出する書類のことです。
この手続きの対象となるのは「新たに事業所得、不動産所得又は山林所得を生ずべき事業の開始等をした方」とされています。
つまり、事業を行うことによって継続的に利益を得る場合は副業でも開業届が必要です。
具体的には、次のような副業が開業届が必要な副業、必要でない副業と考えられます。
開業届が必要な副業の例
- 投資用に複数の賃貸物件を所有し、経営・管理している
- 本業とは別に、定期的にピアノの講師をしている
- 本業とは別に、Webライターの仕事を継続的に請け負っている
開業届が不必要な副業の例
- ハンドメイドの商品を年に何回か販売している
- 不用品をフリマアプリで売った
- 趣味の範囲でブログを投稿し、広告収入を得た
副業の開業届の書き方
本業であっても副業であっても、開業届の提出方法に違いはありません。開業届は税務署の窓口で受け取るか、国税庁のHPからダウンロードできます。事業開始後1ヵ月以内にe-Taxまたは窓口へ持参、郵送により届出書を税務署に提出しましょう。また、開業届の控えは必ず受け取り、保管しましょう。
開業届には、「職業」や「事業の概要」を記入する欄があります。副業の場合、書き方に迷うかもしれませんが、特に書き方に決まりはありません。例えば、副業で動画を作って動画サイトに投稿し、広告収入を得ている場合、「職業」は動画クリエイター、「事業の概要」は動画制作といったように記入します。
副業で開業届を提出するメリット
副業で開業届を出すメリットとしては次の4点が考えられます。
- 青色申告ができるようになる
- 経費にできるものが増える
- 損失・赤字の繰越ができる
- 本業と副業の所得を損益通算できる
詳しくみていきましょう。
1.青色申告ができるようになる
確定申告には青色申告と白色申告の2種類ありますが、開業届を出すことで青色申告ができるようになります。青色申告をすると、さまざまな税制メリットが受けられます。
例えば、青色申告特別控除を受けられるようになります。これは白色申告にはない青色申告の最大のメリットでしょう。複式簿記で帳簿を付け、電子申告で青色申告を行うことで最大65万円の控除を受けられます。控除とは所得から差し引くことのできる金額のことで、課税対象となる所得を減額できるため節税効果が期待できます。
2.経費にできるものが増える
開業届を出さずに確定申告をする場合でも経費は計上できますが、開業届を出すことで経費の範囲が広がります。
例えば、家族の給与を経費にできるようになります。生計を一にしており、年齢が15歳以上の配偶者や親族であることなど条件はありますが、白色申告なら事業専従者給与として一部を、青色申告なら青色事業専従者給与として支払った額を経費に算入できます。
3.損失・赤字の繰越ができる
青色申告をすれば、事業所得に損失(赤字)がある場合、その損失額を翌年以後3年間にわたって繰り越して、各年分の所得から控除できます。
また、前年も青色申告をしている場合は、その損失額を繰り戻して、前年分の所得税の還付を受けることもできます。
No.2070 青色申告制度 純損失の繰越しと繰戻し|国税庁
4.本業と副業の所得を損益通算できる
事業により赤字が生じた場合、その赤字を他の所得と相殺することを損益通算といいます。そうすることで、節税が可能になります。これは青色申告でも白色申告でも受けられるメリットですが、開業届を出す必要があります。
副業で開業届を提出するデメリット
副業で開業届を出す際にはメリットだけでなく、デメリットもあります。主に次の2点があげられます。
1.失業手当を受けられない
一般的に、会社を辞めた後、ハローワークにて手続きをすると失業手当が受けられます。しかし、会社を辞める前や会社を辞めてすぐ開業届を出していると、失業状態にあるとはみなされず、失業手当は受け取れません。ただし、一定の要件を満たした場合、再就職手当を受け取れます。
受給要件をあらかじめ確認し、失業手当を受け取る予定がある方や再就職手当を受け取りたい方は、開業届を出すタイミングを考えましょう。
2.青色申告には手間がかかる
先ほど青色申告にはさまざまなメリットがあるとお伝えしましたが、青色申告をするには事前に手続きをしなければなりません。新しく事業を開始する場合は開業から2ヵ月以内に、現在白色申告で翌年分から青色申告に変更する場合はその年の3月15日までに「所得税の青色申告承認申請書」を税務署に提出する必要があります。
また、最大65万円の控除を受けるためには複式簿記での帳簿を付ける必要があります。簿記の知識がない方にとっては手間に感じるかもしれません。
副業でも確定申告が必要になるケース
開業届を出していなくても、会社員などの給与所得者が副業などをして2ヵ所以上から収入があり、副業で得た所得が1月1日から12月31日までの1年間で20万円を超える場合は確定申告が必要となります。また、医療費控除や寄付金控除などを受けたい場合や所得税が源泉徴収されている場合は副業による所得が20万円を超えていなくても確定申告をしましょう。
副業や開業届に関するよくある質問
ここからは副業や開業届についてよくある質問について答えていきます。
開業届を出したら、副業が会社にばれる?
開業届を出しても出していなくても確定申告をすると住民税にも反映されます。会社員の住民税は給料から天引きされているため、会社に副業しているのがばれる可能性は高いでしょう。そのため、副業を始める前には就業規則を確認することと、上司に相談、報告することをおすすめします。
開業届を出さなかったらどうなる?
開業届は事業を開始した日から1ヵ月以内に提出する必要がありますが、遅れたり、出さなかったりしても罰則はありません。ただし、必要な確定申告をしなかった場合はペナルティがあるので注意しましょう。
また2023年からインボイス制度が始まりましたが、開業届を出さなくてもインボイスを発行することは可能です。インボイスを発行しないとクライアントの税負担増加につながる場合もあるため、継続して仕事を請け負いたい場合は登録を検討しましょう。
副業でも継続的に行う「事業」なら、開業届を出さなければならない
会社員が副業をする際、「事業」と認められるような継続して利益を得る場合には開業届を提出する必要があります。開業届を出す手間はありますが、青色申告の申請もすることで税制面でメリットが得られます。最近ではe-Taxや会計ソフトを使うことで比較的簡単に提出できるようになったため、早めに提出するようにしましょう。