飲食店の開業に必要な資格や届出を、提出先や取得方法、必要になるケースと併せて紹介します。取得するメリットや方法も具体的に解説するので、飲食店の開業準備を進めやすくなるでしょう。
飲食店の開業に必要な2つの資格
飲食店の開業に最低限必要な2つの資格を紹介します。
食品衛生責任者
食品衛生責任者とは、飲食店や食品製造工場などの食品営業施設において、製造、調理、販売等が衛生的に行われるように管理する責任者です。食品衛生法第51条では「営業者は食品衛生責任者を定めなければならない」とされています。
食品衛生責任者になるためには、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。
- 食品衛生監視員、食品衛生管理者となる資格のある者
- 調理師、製菓衛生師、栄養士、船舶料理士、と畜場法に規定する衛生管理責任者若しくは作業衛生責任者、食鳥処理衛生管理者
- 各都道府県の食品衛生協会が開催する「食品衛生責任者講習」を受講し、修了試験に合格する
食品衛生責任者講習は、各都道府県の食品衛生協会が開催しており、1日または2日間の講習を受講することで取得できます。受講費用は、各都道府県によって異なります。
食品衛生責任者は、飲食店の開業に必要な資格の1つです。飲食店を開業する際には、必ず食品衛生責任者を置く必要があります。
食品衛生責任者の役割は、食品衛生法に基づく衛生管理の実施です。具体的には、以下の業務を行う必要があります。
- 食品衛生マニュアルの作成・管理
- 従業員への衛生教育・指導
- 食品の衛生管理
- 施設の衛生管理
食品衛生責任者は、飲食店の衛生管理を担う重要な役割を担っています。飲食店を開業する際には、食品衛生責任者の役割を理解し、適切な管理を行うことが重要です。
防火管理者
防火管理者とは、防火対象物における火災予防の業務を統括する責任者です。消防法第17条では「防火対象物は、防火管理者を選任しなければならない」とされています。
防火管理者になるためには、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。
- 甲種防火管理者
- 乙種防火管理者
甲種防火管理者は、収容人数が30人以上で延べ面積が300平方メートル以上の防火対象物に必要な資格です。乙種防火管理者は、収容人数が30人以上で延べ面積が300平方メートル未満の防火対象物に必要な資格です。
甲種防火管理者講習は、全国の消防学校や消防団などで開催されており、2日間の講習を受講することで取得できます。乙種防火管理者講習は、全国の消防学校や消防団などで開催されており、1日または2日間の講習を受講することで取得できます。
防火管理者は、飲食店の開業に必要な資格の1つです。飲食店を開業する際には、収容人数が30人以上で延べ面積が300平方メートル以上の場合は、甲種防火管理者を、収容人数が30人以上で延べ面積が300平方メートル未満の場合は、乙種防火管理者を必ず選任する必要があります。
防火管理者の役割は、防火対象物の火災予防に関する業務を総合的に管理・実施することです。具体的には、以下の業務を行う必要があります。
- 防火計画の作成・実施
- 防火設備の点検・整備
- 従業員への防火教育・指導
防火管理者は、飲食店の安全を守る重要な役割を担っています。飲食店を開業する際には、防火管理者の役割を理解し、適切な管理を行うことが重要です。
なお、防火管理者は、資格の有効期限が5年となっています。有効期限が切れた場合は、講習を受講して更新する必要があります。
調理師免許は基本的に不要
飲食店の開業には、調理師免許は基本的に不要です。これは、調理師免許は、調理師としての技術や知識を有することを証明する資格であり、飲食店の衛生管理や安全確保とは直接関係しないからです。
飲食店を開業するためには、食品衛生法に基づく「食品衛生責任者」を置く必要があります。食品衛生責任者は、飲食店の衛生管理を統括する責任者であり、調理師免許を取得していなくてもなることができます。
また、飲食店の規模によっては「防火管理者」も選任する必要があります。防火管理者は、飲食店の火災予防に関する業務を統括する責任者であり、調理師免許を取得していなくてもなることができます。
ただし、調理師免許を持っていることで、以下のメリットがあります。
- 食品衛生責任者講習の受講が免除される
- ふぐ調理師の資格を取得できる
- 調理師としての技術や知識を証明できる
食品衛生責任者講習の受講が免除されることで、調理師免許を持っている人は、食品衛生責任者になるための手間と費用を省くことができます。また、ふぐ調理師の資格は、調理師免許を取得していなければ受験することができません。
調理師免許は、飲食店の開業に必須ではありませんが、取得することで、飲食店経営の効率化や、顧客からの信用を得ることにつながる可能性があります。
飲食店の開業に必要な届出
飲食店の開業に最低限必要な届出を4つ紹介します。
食品営業許可
食品営業許可とは、食品衛生法に基づく許可であり、食品を扱う営業を行う際に必要な許可です。飲食店を開業する際には、必ず食品営業許可を取得する必要があります。
食品営業許可を取得するためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 食品衛生法で定められた施設基準を満たしていること
- 食品衛生責任者を置いていること
- 営業者(代表者)が食品衛生法の規定を遵守する意思があること
食品営業許可の申請は、開業予定地を管轄する保健所に行います。申請に必要な書類は、保健所のホームページなどで確認することができます。
食品営業許可の有効期限は、5年です。有効期限が切れた場合は、更新申請を行う必要があります。
食品営業許可を取得することで、以下のメリットがあります。
- 食品の衛生管理に関する指導を受けることができる
- 営業の開始や変更の際に、保健所への届出が不要になる
- 営業許可証を表示することで、顧客からの信用を得ることができる
食品営業許可は、飲食店を開業する際に必ず取得しなければならない重要な許可です。飲食店を開業する際には、早めに必要な手続きを進めるようにしましょう。
なお、食品営業許可の申請の際には、以下の書類を提出する必要があります。
- 申請書
- 営業許可申請書
- 営業者の住民票の写し
- 食品衛生責任者の資格証明書
- 施設の平面図
- 設備図
- 営業設備の設置承認申請書(必要に応じて)
- 従業員名簿(必要に応じて)
申請書類の作成には、専門の業者に依頼することもできます。
防火管理者選任届
防火管理者選任届とは、防火対象物において防火管理者を選任したことを所轄の消防署に届け出る書類です。飲食店を開業する際には、収容人数が30人以上で延べ面積が300平方メートル以上の場合は、甲種防火管理者を、収容人数が30人以上で延べ面積が300平方メートル未満の場合は、乙種防火管理者を必ず選任する必要があります。
防火管理者選任届の提出期限は、特に定められていません。ただし、防火対象物の使用開始日の7日前までに提出することが望ましいといわれています。
防火管理者選任届に記載する内容は、以下のとおりです。
- 防火対象物の名称
- 防火対象物の所在地
- 防火管理者の氏名
- 防火管理者の資格
防火管理者選任届は、所轄の消防署の窓口で提出することができます。また、郵送でも提出することができます。
防火対象設備使用開始届
防火対象設備使用開始届とは、防火対象物において火を使用する設備を設置して使用を開始したことを所轄の消防署に届け出る書類です。飲食店を開業する際には、火を使用する設備(コンロ、ボイラー、給湯湯沸設備、乾燥設備、サウナ設備、ヒートポンプ冷暖房機、火花を生ずる設備など)を設置する場合、必ず防火対象設備使用開始届を提出する必要があります。
防火対象設備使用開始届の提出期限は、設置工事の完了後、7日以内です。
防火対象設備使用開始届に記載する内容は、以下のとおりです。
- 防火対象物の名称
- 防火対象物の所在地
- 設置した火を使用する設備の名称
- 設置した火を使用する設備の設置場所
防火対象設備使用開始届は、所轄の消防署の窓口で提出することができます。また、郵送でも提出することができます。
火を使用する設備等の設置届け
火を使用する設備等の設置届けとは、火を使用する設備(コンロ、ボイラー、給湯湯沸設備、乾燥設備、サウナ設備、ヒートポンプ冷暖房機、火花を生ずる設備など)を新設・増設・移設する際に、あらかじめ所轄の消防署に届け出る書類です。飲食店を開業する際には、火を使用する設備を設置する場合、必ず火を使用する設備等の設置届けを提出する必要があります。
火を使用する設備等の設置届けの提出期限は、設置工事着工の7日前です。
火を使用する設備等の設置届けに記載する内容は、以下のとおりです。
- 防火対象物の名称
- 防火対象物の所在地
- 設置する火を使用する設備の名称
- 設置する火を使用する設備の設置場所
- 設置する火を使用する設備の概要
火を使用する設備等の設置届けは、所轄の消防署の窓口で提出することができます。また、郵送でも提出することができます。
飲食店の種類によって必要になる届出・手続き
開業する飲食店の業態や営業スタイルによって必要になる届出・手続きを紹介します。
深夜における酒類提供飲食営業開始届出書
深夜における酒類提供飲食営業開始届出書とは、午後12時から午前6時までの時間帯に酒類を提供することを予定している飲食店が、所轄の警察署に提出する届出書です。
深夜における酒類提供飲食営業を行うためには、食品衛生法に基づく食品営業許可のほか、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)に基づく「深夜における酒類提供飲食営業開始届出」が必要となります。
深夜における酒類提供飲食営業開始届出書の提出期限は、営業開始日の10日前です。
深夜における酒類提供飲食営業開始届出書に記載する内容は、以下のとおりです。
- 営業者(代表者)の氏名・住所・連絡先
- 営業所の名称・所在地・営業時間
- 営業内容(酒類の種類・提供方法など)
深夜における酒類提供飲食営業開始届出書は、所轄の警察署の窓口で提出することができます。また、郵送でも提出することができます。
風俗営業許可
風俗営業許可とは、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)に基づく許可であり、風俗営業を行う際に必要な許可です。
風俗営業とは、客に飲食や接待などを行い、または一定の設備で遊興させる営業のことをいいます。具体的には次のような業種がこれにあたります。
- バー
- スナック
- パブ
- キャバレー
- クラブ
- カラオケ店
- ゲームセンター
- インターネットカフェ など
風俗営業許可を取得するためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 風営法で定められた施設基準を満たしていること
- 風俗営業の責任者を置いていること
- 営業者(代表者)が風営法の規定を遵守する意思があること
風俗営業許可の申請は、開業予定地を管轄する警察署に行います。申請に必要な書類は、警察署のホームページなどで確認することができます。
社会保険への加入
法人として飲食店を開業する場合、従業員を雇用する際には、社会保険への加入が必要です。社会保険とは、国民年金、健康保険、労災保険、雇用保険の4つの保険の総称です。
国民年金は、老齢、障害、死亡などの場合に給付を受けられる保険です。健康保険は、病気やけが、出産などの場合に給付を受けられる保険です。労災保険は、仕事中にケガや病気になった場合に給付を受けられる保険です。雇用保険は、失業や育児、介護などの場合に給付を受けられる保険です。
社会保険への加入は、従業員の労働条件の改善や、労働者の生活の安定を図るために、法律で定められています。
法人として飲食店を開業する場合、従業員を雇用する際には、以下の手順で社会保険への加入手続きを行います。
スタッフを雇用する場合に必要な手続き
飲食店を開業し、スタッフを雇用する場合に必要な手続きを紹介します。
労災保険への加入
飲食店を開業して従業員を雇う場合、労災保険に加入する必要があります。労災保険とは、仕事中にケガや病気になった場合に給付を受けられる保険です。
労災保険への加入は、事業主の義務です。加入しないと、労働基準監督署から是正勧告を受ける可能性があります。
加入手続きは、従業員を雇用した日から10日以内に、労働基準監督署に「労災保険関係成立届」を提出します。また、労災保険料は、事業主が納付します。
労災保険に加入すると、労働者が仕事中にケガや病気になった場合に、療養費や休業補償、障害補償、遺族補償などの給付を受けることができます。
雇用保険への加入
飲食店を開業して従業員を雇う場合、雇用保険に加入できます。雇用保険とは、失業や育児、介護などの場合に給付を受けられる保険です。
雇用保険への加入は、事業主の任意です。加入すると、従業員が失業した場合に失業手当を受給できます。また、育児休業や介護休業中の給付、雇用保険の教育訓練給付など、さまざまな給付を受けることができます。
雇用保険への加入は、労働基準監督署で手続きできます。加入手続きは、従業員を雇用した日から10日以内に行う必要があります。
開業する飲食店のタイプや企業形態により、必要な資格・届出は異なる
飲食店を開業する際には、食品衛生責任者の資格取得や、営業許可の取得など、さまざまな資格・届出が必要です。
必要な資格・届出は、開業する飲食店のタイプや企業形態によって異なります。
例えば、深夜に酒類を提供する飲食店を開業する場合は、風俗営業許可の取得が必要です。また、法人として飲食店を開業する場合は、社会保険への加入が必要です。
飲食店を開業する際には、事前に必要な資格・届出を確認し、手続きを進めるようにしましょう。