介護タクシーの開業には、法令試験や許可申請、運賃・約款の作成など、さまざまな手続きが必要です。本記事では、これらの手続きの流れと注意点を解説。これらの手続きを自力で進められるか不安、開業後の経営に自信がない人におすすめのフランチャイズも紹介します。
介護タクシーとは
介護タクシーとは、車椅子やストレッチャーの利用者も乗車できるように改造されたタクシーです。運転手は介護の資格を有しており、乗降の介助や、移動中の介助を行います。介護タクシーは、要介護者や体の不自由な方の外出を支援するサービスとして利用されています。
2種類の介護タクシー
介護タクシーには介護保険タクシーと福祉タクシーの2種類があります。
項目 | 介護保険タクシー | 福祉タクシー |
適用制度 | 介護保険 | なし |
利用対象者 | 要介護1~5の認定を受けている方で、ケアプランに「乗降介助・身体介護が必要」と記載のある方 | 身体障害者手帳の所持者、戦傷病者手帳の所持者、重度の障害者、その他 |
料金 | タクシー運賃と介助費用 | タクシー運賃のみ |
介助 | 介護保険の自己負担割合(原則1割)で利用できる | 介助費用はかかりませんが、車椅子やストレッチャーの利用に伴う追加料金がかかる場合があります |
介護保険タクシー
介護保険タクシーは、介護保険の適用を受けているサービスです。そのため、利用対象者は要介護1~5の認定を受けている方で、ケアプランに「乗降介助・身体介護が必要」と記載のある方に限られます。
介護保険タクシーの開業には、以下の要件を満たす必要があります。
- 普通自動車二種免許を取得していること
- 介護職員初任者研修を修了していること
- 法人を設立していること
- 車両を用意していること
- 営業許可を取得していること
介護保険タクシーは、介護保険の適用を受けて介助費用の負担を軽減できるため、利用者からの需要が高いサービスです。また、介護保険の適用を受けるためには、介護保険事業所の指定を受ける必要があります。
福祉タクシー
福祉タクシーは、介護保険の適用を受けていないサービスです。利用対象者は高齢者だけでなく、身体障害者手帳の所持者、重度の障害者など、幅広い層にわたります。
福祉タクシーの開業には、以下の要件を満たす必要があります。
- 普通自動車二種免許を取得していること
- 車両を用意していること
- 営業許可を取得していること
福祉タクシーは、介護保険タクシーに比べて利用対象が広いため、需要が安定しているサービスです。
介護タクシーの開業にかかる費用
介護タクシーの開業にかかる主な費用は次のとおりです。
項目 | 費用目安 |
車両購入費 | 200万円~300万円 |
タクシーメーターの購入費 | 18万円 |
介護職員雇用費 | 月額40万円 |
免許や資格の取得費 | 10万円~30万円 |
その他 | 100万円~200万円 |
その他にも、車庫や営業所の賃料、広告宣伝費、保険料などの費用がかかります。これらの費用は事業規模や地域によって異なりますが、100万円~200万円程度が目安となります。
合計すると、初期費用として500万円~1,000万円程度が必要となります。また、開業後の運転手や介護職員の人件費や車両の維持費などのランニングコストも必要です。
余裕を持って事業を続けるために、1年分の生活資金も用意しておきたいです。生活資金が事業の売上からまかなえなくなると、生活のために副業や借金をしなければならなくなることもあります。
介護タクシーを開業するために必要な資格
普通自動車第二種免許
普通自動車第二種免許は、旅客自動車運転者として自動車を運転する際に必要な免許です。介護タクシーを開業するためには、この免許の取得が必要です。普通自動車第二種免許を取得するためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 満21歳以上であること
- 普通自動車免許を取得し、通算3年以上の運転経験があること
- 視力が両目0.8、片目0.5以上であること
- 深視力があること
- 青・黄・赤色の識別ができること
- 基本的な日本語の読み書きができ、理解できること
- 運転の際に、支障を及ぼす身体障害がないこと
教習所に通う場合、2~3週間程度で取得できるでしょう。費用は教習所によって異なりますが、20万円~40万円程度が目安となります。
介護職員初任者研修
介護職員初任者研修は、介護の基礎から応用までを学ぶ研修です。介護タクシーを開業するためには、この研修の修了が必要です。
【取得条件】
介護職員初任者研修の受講資格は、以下のとおりです。
- 満18歳以上であること
- 初任者研修を修了していないこと
【取得期間と費用】
介護職員初任者研修は、130時間の研修を受講する必要があります。研修は、通学や通信教育など、さまざまな方法で受講することができます。費用は、研修機関によって異なりますが、10万円程度が目安となります。
通学の場合、毎日通えば1~1ヵ月半、週2日ほど通えば4~6ヵ月ほどで取得できます。通信教育の場合、3週間~3ヵ月ほどで取得できます。ただし、通信講座のみで資格を取得することはできず、一部通学が必要です。
介護タクシーを開業するための要件
人員に関する要件
介護タクシーを開業するためには、以下の人員に関する要件を満たす必要があります。
【運転手】
- 普通自動車第二種免許を取得していること
- 介護職員初任者研修を修了していること(介護保険タクシーの場合)
【介護職員】
- 介護職員初任者研修を修了していること
- 介護保険事業所の指定を受ける必要がある(介護保険タクシーの場合)
設備に関する要件
介護タクシーを開業するためには、以下の設備に関する要件を満たす必要があります。
【車庫】
車庫は、車両の長さ、幅+1m以上のスペースがある必要があります。また、車両の点検や清掃が行えるように、適切な設備を備えている必要があります。
【車両】
車両は、福祉車両として改造されている必要があります。福祉車両には、車いすやストレッチャーの利用者でも乗車できるようにするための設備が備えられています。
【営業所】
営業所には、事務所や休憩室、事務用品などを備える必要があります。また、車両の点検や清掃が行えるように、適切な設備を備えている必要があります。
【その他】
車両や営業所の所在地は、国土交通大臣が定める地域内になければなりません。また、営業所は、営業許可の申請日から3年以上使用できる必要があります。
任意保険に関する要件
介護タクシーを開業するためには任意保険に加入しなければなりません。最低基準として、対人1人につき8,000万円、対物200万円以上の任意保険への加入が必要です。
ただ、一般的には対人・対物ともに補償額無制限の保険に加入することが多いです。リスクヘッジのためにも、最低基準を満たすのではなく、無制限の保険への加入をおすすめします。
欠格要件
欠格要件とは、一定の資格や条件を満たさない者に対して、許可や免許などの権利を与えないことを定めたものです。介護タクシーの開業においても、欠格要件が定められています。
介護タクシー開業における主な欠格要件は、おおむね以下のとおりです。
- 1年以上の懲役または禁固の刑に処せられ、その執行を終えたときから5年が経過していない
- 特定の自動車運送事業許可の取り消しを受け、その日から5年が経過していない
- 許可を受けようとする者と密接な関係にある者が特定の旅客自動車運送事業の許可の取り消しを受け、その日から5年が経過していない など
参考:道路運送法 | e-Gov法令検索(第七条欠格事由を参照)
各要件の詳細やほかの欠格事由については、上記参考ページで確認できます。
【11ステップ】介護タクシーを開業するまでの流れ
STEP1.必要資格の取得
介護タクシーを開業するために必要な資格を取得しましょう。これまで紹介してきた必要資格については、下記にまとめてあります。
介護タクシーを開業するためには、以下の資格が必要です。
- 運転手:普通自動車第二種免許
- 介護職員:介護職員初任者研修
なお、介護保険タクシーの場合は、以下の資格も必要です。
- 運転手:介護職員初任者研修
- 介護職員:介護職員初任者研修(ただし、介護福祉士、介護支援専門員、看護師など、介護の資格を有している場合は、介護職員初任者研修の修了は不要)
これらの資格を取得するには、以下の手続きが必要です。
- 運転手:運転免許試験場で学科試験と技能試験を受験する。
- 介護職員:介護職員初任者研修を実施する研修機関で受講する。
STEP2.施設の準備
介護タクシーを開業するためには、以下の施設が必要です。
- 車庫
- 車両
- 営業所
- 休憩仮眠施設
詳しくは「設備に関する要件」で先述しているので、確認しながら準備を進めましょう。
STEP3.人員の選任
介護タクシーを開業するためには、以下の人員が必要です。
- 普通自動車第二種免許をもつ運転手
- 運行管理者
- 整備管理者
なお、これらの人員は兼任することもできます。
STEP4.法人の設立
介護保険タクシーは、訪問介護サービスの一種であるため、法人でなければ開業できません。これは、介護保険事業所の指定を受けるためには、法人であることが要件となっているためです。
一方、福祉タクシーは、介護保険の対象外のサービスであるため、個人事業主でも開業することができます。
STEP5.許可申請書の提出
介護タクシーで開業するには、営業所所在地を管轄する運輸支局輸送担当に許可申請書を提出しなければなりません。申請書は本通1部と控え2部の計3部必要です。
STEP6.法令試験と事情聴取を受ける
介護タクシーを開業するには法令試験と事情聴取を受けなければなりません。法令試験は、介護タクシー事業に必要な法令に関する知識を有しているかを問う試験です。〇×式の30問の試験で、24問以上の正解で合格となります。
試験の内容は、以下のとおりです。
- 道路運送法
- 道路運送法施行令
- 道路運送法施行規則
- 旅客自動車運送事業運輸規則
- 旅客自動車運送事業等報告規則
- 自動車事故報告規則
- その他一般旅客自動車運送事業の遂行に必要な法令等
STEP7.許可証の交付
介護タクシーの許可証の交付までにかかる期間は、通常2ヶ月程度です。
前工程である法令試験と事情聴取の合格後、運輸支局または都道府県知事の審査が行われます。審査の結果、問題がなければ、許可が交付されます。
STEP8.登録免許税の納付、届出
介護タクシーの許可証の交付後、登録免許税の納付と届出が必要となります。登録免許税は、国に納付する税金です。介護タクシーの登録免許税は3万円です。
STEP9.運賃・約款の認可申請
介護タクシーの運賃・約款は、国土交通省が定めた公示基準に基づいて審査されます。公示基準に適合しない運賃・約款は却下されます。
STEP10.車両の準備と登録
事業用の基準を満たした福祉自動車を用意し、検査・登録を行いましょう。その後、ナンバープレートを緑のものに変更します。
STEP11.事業の開始と運輸開始届の提出
介護タクシーの事業開始は、許可証の交付後、運輸開始届の提出までに行う必要があります。
運輸開始届は、事業所を管轄する運輸支局に提出します。届出様式は、運輸支局のホームページからダウンロードできます。
事業開始から6ヵ月以内に運輸開始届を提出しなければならないため、忘れないよう気をつけましょう。
介護タクシーはフランチャイズでの開業がスムーズ
介護タクシーの開業は要件が細かく決まっていて、手続きも煩雑です。フランチャイズに加盟することで、サポートを受けながらスムーズに開業できるでしょう。加盟チェーンのブランド力を活かして集客をしたり、経営に関するアドバイスを受けたりできるメリットもあります。
介護タクシーの開業におすすめのフランチャイズを紹介します。
介護保険タクシー事業会
- 設立18年の介護保険タクシーのパイオニア
- 介護保険を扱えるため安い料金で提供可能
- 介護保険タクシーに必要な項目が網羅された支援制度
介護保険タクシー事業会は、介護保険タクシーの開業支援を行うNPO法人です。2007年に会社を立ち上げ、介護保険タクシーのパイオニアとして事業を行っています。
介護保険タクシーは、介護保険を利用してタクシーを動かすことも従来の介護タクシーとして動かすことも両方できる事業です。このようなマルチな対応によってお客様の客層が増えるため、安定した事業を可能にします。また、介護保険を使える介護タクシーは3分の1という安い料金で提供可能です。
NPO法人のコアラでは介護や福祉に経験のない初心者でも経験者と同じ経験値やプロの知識・技術を学べる講座があり、それらを体験してから開業できる支援制度が設けられています。研修システムを採用しているため、日本中のどこでもパソコンから開業支援を受けることも可能です。
開業資金 | ロイヤリティ | 契約期間 | 加盟店舗数 |
車両費:170万円 事務所:持ち家場合は維持費のみ/賃貸費用 開業支援費:フランチャイズコース・・1,500,000円 ベイシックコース・・1,144,500円 介護保険タクシー変更コース・・900,000円 運転資金(生活費用):仕事が安定するまでの費用 | 要問い合わせ | 要問い合わせ | 要問い合わせ |
VISTA
- 店舗なし・従業員なし・在庫なしで開業OK
- マーケティング支援は全て本部がサポート
- 介護施設や病院関係者との横のつながりができる
VISTAは、地域の介護・医療を様々な事業から支援しています。スタッフの全員が国家公務員である救急救命士の資格を所持しているという特長があります。高齢化社会に向けたビジネスに取り組んでいるため、やりがいのある仕事です。
フランチャイズに加盟すると集客や営業、さらにはSNS運用やHP作成などにわたるマーケティングは全て本部が支援します。また、開業後も研修を行うため、安心して運営できる仕組みがあります。
開業前後のサポートや運営だけでなく、実務や財務まで幅広く本部によるサポートを受けることが可能です。また、車1台と必要最低限のコストで開業できます。そのため、未経験でも安心して開業ができます。
開業資金 | ロイヤリティ | 契約期間 | 加盟店舗数 |
要問い合わせ | 要問い合わせ | 要問い合わせ | 要問い合わせ |
ハッピーハートグループ本部
- 開業3年目以降に独立も可能なバックアップ体制
- 運行に関わる実務ノウハウを全て伝授
- オーナーの開業ビジョンに合わせたコース選びが可能
ハッピーハートグループは、地域福祉の充実に貢献し、バリアフリー社会の実現を目指しています。千葉県を拠点として首都圏に展開し、介護タクシーのみならず様々な支援事業を行っています。
開業3年目以降は個人事業主として完全に独立することも可能です。そのためのバックアップ体制も充実しており、多くの先輩たちがすでに独立しているという実績があります。個人の努力次第で事業展開もでき、仕事量も調節できるため、裁量の大きい仕事です。
介護タクシーを開業するにあたって、車両や備品の調達から複数の研修、営業方法に至るまで、運行に関わる実務のノウハウを全て伝授することが可能です。本部のサポート体制が充実しており、安心して開業できます。
開業資金 | ロイヤリティ | 契約期間 | 加盟店舗数 |
加盟金:30万円(2年分の年会費含む) | 8,000円/月(税別) | 2年 ※以降完全独立全面バックアップ ※以降2年毎の更新も勿論可能 | 要問い合わせ |
NPO法人日本福祉タクシー協会
- 開業までの認可申請を支援
- 社会貢献や生きがいが持てる仕事
- 開業資金・運転資金がかからずスタートしやすい
NPO法人日本福祉タクシー協会は、福祉輸送を通じて、高齢者や障碍者の社会参加を支援しています。利用者の利便性と公共の福祉を重視しており、社会貢献や社会づくりの一端を担っています。
業務委託から開業までの手続きは約3か月かかります。しかし、開業に至るまでの認可の申請も支援しており、諸手続きに関わる不安は必要ありません。開業後も営業アドバイスやPR活動などの支援も行っています。
日本福祉タクシーの自宅開業は店舗・事務所・倉庫は不要です。また、昼間の仕事でノルマもないため、スケジュールが立てやすいという特徴があります。社会貢献に関わり、プライベートと両立できるため、充実した生活が送れます。
開業資金 | ロイヤリティ | 契約期間 | 加盟店舗数 |
車両購入費:150万円~400万円 資金:150万円~180万円 事業許可:50万円 運輸局登録免許税:3万円 | 0円 | 要問い合わせ | 要問い合わせ |
アイラス介護タクシー
- 低資金、ローリスクで開業可能
- コールセンターを設置し迅速で安心できる配車を実現
- 参加台数250台の大規模ネットワーク
アイラス介護タクシーは、東京、神奈川、埼玉、千葉、茨城で展開する介護タクシーの一大ネットワークです。コールセンターを設けているため、利用者にとっては迅速かつ正確な歯医者が可能になります。また、加盟店にとっては配車の依頼ができるため、依頼を断らず信用・安心感を築ける仕組みがあります。
ストレッチャーや団体の複数台配車、ヘルパー付き添いなど、自分が対応できない依頼については、グループ全体で対応します。また、突然のアクシデントに関してもグループメンバー全体でサポートできる仕組みがあり、安心して運営できます。
契約後は開業までの4か月間で準備を進めていきます。ミニ勉強会や地域メンバーとのコミュニケーションが図れる場があり、各資格もこの期間で取得していきます。
開業資金 | ロイヤリティ | 契約期間 | 加盟店舗数 |
入会金:80万円 車両購入費:250万円(中型) 介護職員初任者研修:15万円(平均) 二種免許取得:25万円 車椅子購入:3万円 名刺作成:1万円 タクシーメーター取り付け:12万円 備品:10万円 | 会費:10,800円 | 要問い合わせ | (参加台数:250台) |
介護タクシーの開業には時間がかかる!準備を早めに始めよう
介護タクシーを開業するには、法令試験と事情聴取の合格、許可証の交付、登録免許税の納付と届出、運賃・約款の許可申請、車両の準備と登録、事業の開始と運輸開始届の提出など、さまざまな手続きが必要です。
これらの手続きには、それぞれに一定の期間がかかります。そのため、介護タクシーの開業を検討している方は、早めに準備を始めることをおすすめします。自力で手続きを進められるか不安な人、経営や集客に関する知識に不安がある人には、フランチャイズへの加盟もおすすめです。
本記事で紹介したフランチャイズのなかに気になるところがあったら、まずは公式HPをチェックしてみてください。加盟費やロイヤリティ、詳しいサポート内容など、わからないことがあったら問い合わせをしてみましょう。なるべくたくさんのチェーンの情報を集め、自分に合ったところを選ぶことが大切です。